森の窓
2021年09月03日
現在の五千円札の肖像画は、明治の女性文学者樋口一葉です。私は財布の中に常に一枚は入れています。その理由は、彼女の貧乏生
活を忘れずに、私自身を戒めること、もう一つは、私には使い勝手の良い金額なのです。
一葉(菜津)は、17歳で父に死なれ、父の借金と、母と妹の生活を背負う事になります。貧乏生活の始まりです。生活のため作家
を目指し、やっと作家として生活の目途が立った時に、結核に倒れ24歳で亡くなりました。
その彼女が五千円札の肖像に載っているのです。私だったら、一葉が気の毒でお金の顔にはできないと思います。代表作品は「たけ
くらべ」や「にごりえ」などと言われますが、残念ながら、お勧めできません。一葉の作品は、江戸の時代を引き継いだ、文語体なの
です。学問のある、坪内逍遥や二葉亭四迷のように、文学の理論や理想などにはお構いなしに、彼女は江戸を全身で引継ぎ、明治の光
や自己の感性のままに作品を作ります。そのため彼女の作品は文語体のままです。もちろんもう少し生をまっとうできれば違う一葉に
出会えたとは思いますが。現在の口語体の海にひたっている、私たちには、講談師にでも読んで貰わないと意味を汲みとることが困難
です。(現代語訳もありますが)
でも、私たちは令和の時代になっても、一葉の頑張りとその才能は、覚えていたいと思う、そのような人だと思います。昭和の作
家、瀬戸内寂聴さんの「炎凍る=樋口一葉の恋」など読んで、一葉を偲んでみたいと思います。瀬戸内さんはたぶん人間通だと思うの
で、(私が勝手に想像しているだけですが)瀬戸内さんの、一葉に対する意見は採用してもいいと思わせます。江戸も明治も遠いもの
ですが、それらを経て今日があるのです。どちらにしても女性の力には、いつも感心させられます。
(小形烈/記)