森の窓

森の窓

vol.44

2021年07月26日

多和田葉子さんを紹介したいと思います。彼女は今まで紹介した、巫女のような作家と違い、都会の勉強のできる、いうなれば山の手

 

の人だと思います。ご本人は実は「巫女」になろうとしているのかも知れませんが。ヨーロッパに渡った巫女というのもいい案かも知

 

れません。石牟礼道子さんのような列島の本当の巫女は、ヨーロッパの人々にはまったく見えません。また見る気もないでしょう。西

 

脇順三郎のように何度もノーベル文学賞候補になっても、英語で詩を書いていても、ヨーロッパに知られていないのでノーベル文学賞

 

はもらえません。所詮は偏った先進国主義だと理解するのが妥当です。ところが多和田葉子さんは、ドイツに住み現地語を使いますの

 

で、ノーベル文学賞に最も近い日本人作家かも知れません。日本の女性作家では、ふにゃふにゃしたお話が得意な川上弘美さんなどが

 

私は好きですが、ノーベル文学賞にはあまりに遠い存在なのではと思います。

 

最近は川上弘美さんも多和田葉子さんも、世間の評価はわかりませんが、私的には技巧に走りすぎているのではと思っています。歳を

 

とっても変わらないのが私は好きです。一人の人間があまり欲を出してはいけない。世間にとりわけ合わせる必要もないので、ある意

 

味愚直でもいいのでは、というのが私の個人的な意見です。さらに勝手な意見で、いい加減さを白状するようですが、技術力の高い、

 

また精密なと思わせるバージニア・ウルフの作品は疲れるので、ちょっと苦手なのです。しかし、世間の現実は激しく流動しているこ

 

ともまた事実なのだと思います。古典に向かったり、手法を変えてみたりもあるのかも知れません。でも、自己幻想は所詮「三つ子の

 

魂百まで」なので、抱え込んでいくしかないのだと感じています。

 

文学が好きな私などは半端者の発想なので、力のある作者から見れば、何をいっているか(太宰治にいわせれば「命を懸けて」いるん

 

だ)、といわれてしまうかも知れませんが、さらに勝手なことをいわせてもらえれば、そうかなあと独り言が出てしまいます。

 

多和田葉子の芥川賞受賞作『犬婿入り』は短い作品なので読んでみてください。現代文学の一つの傾向です。合わせて川上弘美さんの

 

『蛇を踏む』も紹介させてください。川上弘美さんのふにゃふにゃ感が私は好きなのです。

 

(小形烈著「私の吉本隆明」より)

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