森の窓
2019年11月01日
フリップス・K・ディックを紹介します。サイエンス・フィクションの巨匠と言われる作家です。沢山の作品がありますが、その中で
「アンドロイドは電気羊の夢をみるか?」がとりあえずお勧めです。この作品は「ブレードランナー」と云う題で映画化されています
が、彼の作品の映画化はヒットはしているものの、作者の意図とはだいぶ違ったものになっているように私には思えます。各映画作品
は、ディックの類い稀な発想力を利用していますが、いわゆる文学性の様なものを排除しているのではと思えます。もう一つ「ユウビ
ック」も勧めたいと思います。彼の発想力にはほとほと感心します。でも私が日本の読者に一番言いたいことは、村上春樹さんの作品
とディックの作品を比較してみて欲しいと言うことです。村上春樹さんの長編小説は「羊をめぐる冒険」そして「世界の終わりとハー
ドボイルドワンダーランド」と始まっていますが、それより25年程前に、ディックは「戦争が終わり、世界の終わりが始まった」と云
う作品を書いています。私の感想では、ディックがSFの巨匠ならば、村上春樹さんは、イリュージョン・フィクションの巨匠だと思
っていることです。彼の一連の長編小説を思い起こしてみて下さい。ディックも村上もユングの世界観の様なものが下敷きにあり、作
品の何処に本質が有るのか悩ませます。ディックは科学風な作品なのでそのアイデアを利用して映画化するのは面白いと思いますが、
村上作品の幻想的なものは、映画化はかなり困難なものになると思います。私の意見では「ノルウェーの森」が映画化の失敗例です。
村上作品からセックス描写を落としてしまうと、人間の幻想の大きな部分を欠落させてしまい、村上作品が世界の若者たちから多くの
支持を得たもの、そして現代的なものを見失ってしまう様に思えます。最後に与太話を一つ、村上春樹さんの「世界の終わりとハード
ボイルドワンダーランド」が出版された少し後に、尊敬して敬愛した吉本隆明さんに、私が「村上春樹は良い」と言ったのに吉本さん
からは「大したことない」と言われ。数年後に吉本さんが何処かで「村上春樹は良い」と言っているのを見たことがあります。その時
は少し嬉しかったです。
(小形烈/記)