森の窓
2019年08月01日
久しぶりに、最近の作品を読みました。山田詠美さんの「つみびと」です。私にとって、読後の感想を書きたくなる作品でした。
琴音とその子蓮音、蓮音の幼い子桃太、三人のそれぞれの宇宙からの視点で、物語は始まり、そして終わっています。桃太は幼いので
当然ですが、琴音と蓮音も自分自身の宇宙からしか世界を見ることが出来ません。吉本隆明さんがその著書「共同幻想論」で、自己幻
想は共同幻想に逆立して成立する。と言っていますが、その事がまるで原始的に理解出来ない、或いは理解したくない人が、主人公だ
と思います。山田詠美さんは、その様な人に、物語として寄添いたっかたのだと思います。
谷川俊太郎さんは、その詩集「二十億光年の孤独」」の、「祈り」で、ところはすべて地球上の一点だしみんなはすべて人間のひと
り さびしさをたたえて僕は祈ろうと書いています。(と記憶しています。)それを読んだ、当時高校生だった私は、ものすごく感動
し、又、安心しました。(二十億光年とは、パロマ天文台の世界最大の大望遠鏡での観測可能距離です。)今から思うと、私にとって
アイデンティティクライシスの時だったのかも知れません。谷川俊太郎さんは、三好達治から、遠くから来た若者と言われています
が、人を感動させる事など無い、私達は、皆んなの近くでごそごそと生きています。私の場合は運良く「つみびと」にならずに。
私にとっては、結構疲れる小説でしたが、彼女は、ある意味力量の有る人だと、今更ながら思わせられました。
(小形烈/記)