森の窓
2021年07月30日
紀行文を紹介したいと思います。ブルース・チャトウィンの『パタゴニア』です。
ビートルズを生んだイギリスは、こんな人も住んでいます。当時のイギリスの空気なのかも知れません。私にいわせれば本当に変わっ
た人だと思います。まったく自由にパタゴニアを歩きます。体力も申し分なく、ものおじもせず。文章を書くことの不安も感じられま
せん。さらに旅行の目的もなんかこじつけか思いつきでいっているのではないかと感じてしまいます。読んだことによってためになる
感じもしません。ただ、ためらいのない紀行文を書いたことによって高い評価を得て、たぶん収入はかなりのものだと思えますし、立
場もかなり良くなったのではと推測されます。彼について読んだところ、美青年で教養もあり、そして同性愛者だったそうです。私の
きわめて個人的な意見ですが、その人の書いたものなら読んでみたいという欲望をわかせます。ちなみに私は女性が好きです。
もっとも時代背景的には旅行ガイドブック『地球の歩き方』があったと思います。冒険も探検もなくなってきた中、列島や世界を放浪
する若者がたくさんいた時代でもあります。いわゆる自分探しの旅かも知れません。当時の国鉄による旅行の呼びかけに、列島の若者
も「いい日旅立ち」をしたのです。
現在の若者の置かれた状況を考えると、私たちは結構いい気なものだったのかも知れません。現在の列島の状況は携帯電話やアマゾン
にからめとられ、便利な一方で身動きの取れない中、それなのに皆で漂流しているのです。明日への方位もなく、「明日はどっちだ」
とも叫ぶこともできないのが現在だと思います。
それでも私たちは歩き続けます。なぜなのだろう、親鸞のいうように「煩悩」が盛んなせいか、フロイトのいうように「リビドー」の
せいなのか。どちらにしても体力があることはうらやましい限りです。
(小形烈著「私の吉本隆明」より)